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東京高等裁判所 平成2年(う)1382号 判決

本店所在地

東京都渋谷区代々木二丁目二九番二号

株式会社オーシャンファーム

(右代表者代表取締役 若松京子)

本籍

栃木県下都賀郡石橋町大字下古山一四六九番地

住居

東京都渋谷区桜丘町四番一八-九〇一号

会社役員

若松俊男

昭和二四年二月二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成二年一〇月二六日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らからそれぞれ控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官町田幸雄出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護士権藤世寧並びに同山田修連名の控訴趣意書及び同補充書に、被告人若松俊男に対する控訴の趣意は、同被告人名義の控訴趣意書に、これらに対する答弁は、検察官溝口昭治名義の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

各控訴趣意書中、事実誤認に主張について

各所論は、要するに、原判示第二の二の事実につき、原判決は、被告人株式会社オーシャンファーム(以下「被告会社」という。)が西北実業株式会社(以下「西北実業」という。)に支払った仲介手数料合計三億一〇〇〇万円の総てが架空のものである旨認定判示しているが、右支払額中には正当な仲介手数料合計一億二五〇〇万円が含まれているので、これを控除して被告会社の昭和六二年三月期における所得金額を算出すべきであるのに、これを看過した点で事実を誤認したものというべく、その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。

そこで、原審記録及び証拠物を調査して検討するに、原判決が原判示第二の二のとおり認定判示した事実は、正当として是認することが出来る。所論に鑑み、更に補足して説明するに、原判決の挙示する関係証拠によると、次の事実を認めることが出来、これに反する被告人の当審公判廷における供述は、他の関係証拠に照らし到底措信することは出来ない。すなわち、

一  本件各犯行当時、被告会社の代表取締役の地位にあった被告人若松俊男(以下「被告人」という。)は、被告会社の所得を秘匿しようと考え、昭和五九年一二月ころ、不動産の売買や仲介業等を営んでいる西北実業の代表取締役白石瑞男に対し、経費の水増しや利益の圧縮に協力して欲しい旨申し入れた。白石は、右の申入れを引き受けると、被告会社の脱税に協力することになるので、一旦はこれを断わったものの、その当時、西北実業が経営資金に窮していたため、その資金を得ようと考え、結局、これを引き受けることとし、同月以降、いわゆるB勘屋として、被告人の求めに応じ、その都度、西北実業名義の架空領収証を作成して交付するようになった。

二  西北実業は、被告会社が昭和六二年三月期中に取引した(1)東京都目黒区上目黒五丁目一番二七所在の土地建物(以下「上目黒物件」という。)、(2)同都品川区上大崎二丁目二六六番六所在の土地(以下「上大崎物件」という。)、(3)同都渋谷区神泉町三四番三所在の土地建物「以下「神泉町物件」という。)の三物件につき、売買の成立に協力していたので、白石は、被告人に対し、手数料の支払い方を催促していたが、被告人は、「決算期まで待ってくれ」などといって、これに応じないでいた。

ところが、同期における被告会社の売上が飛躍的に増加して、多額の利益が生じたため、被告人は、被告会社の法人税申告に際し、前期同様、その所得を秘匿しようと企て、税理士の小澤清(原審相被告人)と相談し、かつ、その指導の下に、総額七億二八〇〇万円に上る架空の仲介手数料を計上し利益を圧縮することとした。

そこで、被告人は、小澤税理士の用意して来た株式会社エヌ・ケー・イー名義の架空領収証等を利用する一方、前記三物件の取引に絡めて、西北実業からも自ら架空の領収証を取り付けようと企て、同年五月ころ、右白石に対し、「オーシャンファームの六二年三月期も相当な利益が出てしまいましたので、前年と同じようにオーシャンファームの利益を圧縮するために協力してくれませんか。ついては、この三物件につき、白石さんにその手数料として支払わなければならないお金がありますので、そのお金に上乗せした形で全部で二億一〇〇〇万円の領収証を日付を遡って先に切って頂けませんか。」と、架空領収証の作成方を依頼した。

白石は、これに応じて、そのころ、西北実業が被告会社から右三物件につき仲介手数料を受け取った事実がなかったにもかかわらず、(1)上目黒物件につき、昭和六一年一〇月一五日に四〇〇〇万円を、(2)上大崎物件につき、同年一一月一日に一億円を、(3)神泉町物件につき、同年九月一六日に七〇〇〇万円をそれぞれ受領した旨の架空領収証三通を作成して被告人に交付した。これに対し、被告人は、同年六月初めころ、被告会社名義で、支払期日を西北実業の決算期に合わせて同年八月三一日とする額面の一億円の約束手形を振り出して白石に交付しておいた。

三  被告会社において、昭和六二年三月期における所得金額を算出するに当たり、右領収証三通を使用し、支払仲介手数料合計二億一〇〇〇万円を架空計上したところ、同年六月二三日に至り、国税当局が本件各脱税の査察に着手した。そこで、慌てた被告人は、右事実を隠蔽すべく、同年八月二七日、被告会社の資金を用い、三井銀行新宿支店に開設してある西北実業の普通預金口座に四〇〇〇万円を、同じく当座預金口座に七〇〇〇万円をそれぞれ振込送金した。そのうち七〇〇〇万円については同日右の普通預金口座に振り替えられた。一方、西北実業は、同月三一日、さきに被告人から交付されていた被告会社振出の約束手形を取り立て、これを右当座預金口座に預け入れた。なお、その際、被告人は、白石に対し、「架空領収証の件がばれないように、西北実業宛に二億一〇〇〇万円を出しますので、そのうち、上目黒物件については、一〇〇〇万円をアップルシティに、上大崎物件については、五〇〇〇万円をシーランドエンタープライズに、神泉町物件については、二五〇〇万円を吉村興産にそれぞれ渡してくれませんか。」といって、その支払方を依頼した。そこで、白石は、同月三一日、被告人の右依頼に従い、それぞれ合計八五〇〇万円を支払い、残額一億二五〇〇万円については、その時点で西北実業が正規の仲介手数料として取得すべき金額が確定していなかったため、これを預かり金として処理した。

四  白石は、昭和六二年六月二三日、被告会社の本件脱税に関し、国税当局から事情を聴取されたので、その旨を被告人に連絡したところ、すぐ来てくれというので、被告人の居住していたマンションに出掛けた。被告人は、すでに小澤税理士らと本件脱税が発覚しないようにすべく打ち合わせをしていたが、白石に対しても、「オーシャンファームの脱税がばれないように打ち合わせをしていたので、今後協力して頂きたいのです。査察の人に事情に聞かれたら、実際に取引があったようにいって下さい。」といって、脱税工作の隠蔽方を依頼した。更に、被告人は、同六三年二月ころまでの間、白石らと約一〇回にわたり、口裏を合わせるための打ち合わせを行ったが、その過程において、その事実が存しないにもかかわらず、白石に対し、各物件(前記上目黒物件等も含む。)に関する取引の発生、成立した状況、契約時までの状況等に記載した「仲介又は売買した物件の明細」と題する書面を渡し、「このメモを見て、取引の内容をよく承知しておいてください。また、物件を見ていなければ見ておいて説明できるようにしておいてください。査察の人にはこういうふうに説明しているので、それに合うようにお互いに矛盾した説明をしないようにしてください。」といって依頼した。

五  その後、昭和六三年八月一〇日に至り、白石と被告人との間で、被告会社が西北実業に対し、前記各物件に関する正規の仲介手数料として、合計三二〇〇万円(上目黒物件につき一〇〇〇万円、上大崎物件につき一二〇〇万円、神泉町物件につき一〇〇〇万円)を支払う旨の合意が成立したので、西北実業は、これを取得すると共に、その旨を記載した被告会社宛ての同日付領収証三通を作成して被告人に交付した。なお、残額九三〇〇万円については未だ清算がなされず、西北実業において預かり保管中である。

以上の認定のとおりであって、西北実業は、被告会社が昭和六二年三月期中に行った前記三物件の取引につき、それが「仲介」に当たるか否はともかく、何らかの関与をしており、被告会社に対し手数料を請求し得る立場にあったことは認められる。しかし、被告人は、白石からの催促に対し、言を左右にして期中にはその支払をしていないのみならず、支払うべき金額を明示することもしていないのであって、結局、同期中には西北実業に対する手数料支払債務は確定していなかったものといわざるを得ず、したがって、これを同期における被告会社の損金に計上するに由ないところである。

被告人が、右手数料に上乗せする形で、かつ、日付を遡らせて架空領収証の作成を依頼したのは、同年三月期末を過ぎた同年五月ころのことであり、しかも、その時点でも西北実業の取り分を明示することなく、単に領収証の額面を合計二億一〇〇〇万円にすることを依頼しているに過ぎない。ちなみに、被告人は、そのころ被告会社名義で西北実業宛に一億円の約束手形を振り出しているが、本来不動産業者の間では仲介手数料の支払は現金決済が通常の形態とされており、手形による決済は行われていないのであって、被告人が、このような方法を採ったのは、前期に架空手数料を計上した際、小澤税理士から、資金の移動面で辻褄を合わせる方法として、手形を切っておけばよいと教示されていたためにほかならないというべきである。その後、被告会社に査察が入るに及び、被告人は、急遽西北実業に一億一〇〇〇万円を振込送金して、前記手形の一億円と合わせ、前期領収証金額に見合う金額の移動があったように取り繕っているが、事後的にそうしたからといって、昭和六二年三月期中に本件手数料支払債務が確定したことにならないのはいうまでもないところである。なお、被告人は、その際、白石に対し、右二億一〇〇〇万円のうち、合計八五〇〇万円をアップルシティ外二社に支払うよう依頼しているが、仮に所論の如くその残額一億二五〇〇万円がそのまま西北実業に対する手数料に当てられたものと仮定しても、そのことが確定したのは右依頼のなされた時点、すなわち昭和六二年八月のことであって、これを損金に計上出来るのは昭和六三年三月期である。のみならず、前示認定事実のとおり、実際に西北実業の取り分が確定したのは昭和六三年八月のことであって、これを基準にすれば、その損金計上が認められるのは平成元年三月期である。

所論は、白石瑞男が検察官に対する供述調書中には、原判決の認定に副う供述部分が存するけれども、その供述内容は虚偽かつ不正確な点が多々存するので、到底信用出来ない旨主張する。

しかしながら、原審弁護士は、白石の検察官に対する右供述調書を原判示第二の事実の証拠とすることに同意しており、また、その信用性を争う態度も示していない。そして、白石は、右調書において、検察官から示された領収証、被告人作成の「仲介又は売買した物件の明細」と題する書面及びメモ等の関係資料を十分検討し、かつ、自ら作成した「若松さんからの指示で水増し領収(受領)しバックした状況等」と題する書面に基づき、被告人に依頼されて本件架空領収証三通を作成した経緯について具体的かつ詳細に供述しているのであって、その供述内容は大筋において被告人の供述とも一致しているのである。また、被告人自身、捜査段階のみならず、原審公判廷においても、所論の仲介手数料が架空のものであることを一貫して認めている(所論は、被告人の検察官に対する平成二年二月二二日付供述調書の記載内容は、白石の多分に虚偽の事実を含んだ供述を前提にしたものであるから、その信用性は認められない旨主張するが、被告人は、西北実業作成にかかる架空領収証三通を示された上、これがいずれも日付を遡らさせて作成して貰ったものである旨供述しているばかりでなく、右調書は、原審において、同意書面として取調べられているのであって、他の関係証拠と対比してみても、その供述内容に疑いを挟むべき事情は全く窺えないので、右主張は採用出来ない。)。更に、被告会社は、右の事実を前提として、昭和六二年三月における法人税につき、同六三年三月二五日付で修正申告をしているのみならず、渋谷税務署長が平成二年六月一日付で減額の更正決定をした(いずれも被告会社の所得金額及び法人税額が原判決の認定した額より多い。)が、その決定に異議の申立をした形跡は窺えない。以上のような諸事情を総合すれば、白石の前記供述は十分信用出来るというべきである。

次に、所論は、白石は、検察官に対する供述調書において、被告会社に対し、未だ九三〇〇万円を返済しておらず、預かり金として処理した旨供述しているが、その根拠が明らかでないのみならず、これが貸借であるとすれば、期限や利息等の約定もなされ、契約書類も存在する筈であるのに、これらのことが確認されていないばかりか、その供述内容は、当事者の特定も出来ない程に曖昧なものである上、西北実業において、右金員を預かり金として処理した形跡もなく、かえって、右金員の大半が同会社に不動産取引の資金として費消されているのであって、自己の保身のために作出された虚偽のものであるから、到底信用できない旨主張する。

確かに、白石は、検察官に対する供述調書において、「私の手元に残った一億二、五〇〇万円につきましては、西北実業株式会社の預り金勘定として経理処理をしました。この一億二、五〇〇万円のうちには、先にも話しましたように、この三物件の売買に関して私の方もその仲介等に尽力しておりますので、西北実業株式会社で戴けるべきお金も含まれておりましたが、その金額が未だ若松さんとの間で相談して確定していなかったことから、西北実業株式会社で戴けるべき金額が確定していない以上、預り金勘定で処理するのが妥当であろうという考えのもとで行ったものです。その後、私は、この預り金について公認会計士の山本先生にその真相を打ち明け、昭和六三年八月に精算しております。私の受け取るべき正規のお金としては、若松さんと相談し、合計三、二〇〇万円として確定したのです。しかし、私は、この差額の九、三〇〇万円については、未だ若松さんに返しておりません。なお、私及び西北実業株式会社と若松さん及び株式会社オーシャンファームとの間における金銭の貸借関係は、現在右のものが残っているだけです。」と供述していることが認められる。しかし、右の供述自体からも明らかなように、その趣旨とするところは、被告会社と西北実業との間で、前記三物件に関する仲介手数料の支払いにつき、その金額が確定していなかったため、西北実業としては、その全額を利益として計上することはせず、預かり金として処理するのが妥当であると考え、その旨処理した経過を供述しているに過ぎず、そして、右のように処理したことには、それなりに根拠を有しており、また、「私及び西北実業株式会社と若松さん及び株式会社オーショャンファームとの間における金銭の貸借関係は、現在右のものが残っているだけです。」と述べている点も、西北実業が被告会社に対し、九三〇〇万円の返還債務を負担している趣旨を明らかにしたものであって、特に右当事者間で貸借関係を結んだ訳でもないのであるから、その旨を取り決めた関係書類の存することが確認されていないとしても、格別不自然ということは出来ない。確かに、当審で取り調べた関係証拠によると、西北実業の昭和六一年九月一日から同六二年八月三一日までの間における第七期決算報告書添付の貸借対照表中には、預かり金として六二万〇八八〇円が計上されているのみで、所論指摘の九三〇〇万円は計上されていないが、B勘屋として、架空領収証の作成に関与した白石としては、右九三〇〇万円が被告会社の脱税により捻出されたものであることを十分承知していたので、その隠蔽工作に努めこそすれ、これを西北実業の公表帳簿に計上することは、およそ考えられないから、貸借対照表に預かり金として計上されていないことをもって、被告会社の正規の支払仲介手数料であるとはいえず、また、右九三〇〇万円の大半が西北実業の不動産取引資金に充てられたとしても、その一事から直ちに右金員が正規の支払仲介手数料であるとは到底いえない筋合いである。所論に鑑み、白石の検察官に対する供述内容を十分検討しても、前記認定に副う供述に疑いを挟む余地は全くないから、所論は採用出来ない。

以上のとおりであって、事実誤認の各論旨はいずれも理由がない。

弁護人の控訴趣意中、量刑不当の主張について

所論は、要するに、被告人を懲役二年の実刑に処した原判決の量刑は重きに失し不当であるから破棄を免れないというのである。

そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、本件は、不動産の売買及び仲介等を目的とする被告会社の代表取締役の地位にあった被告人が、単独あるいは税理士の小澤清と共謀の上、被告会社の三事業年度にわたる業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産の売買や仲介の手数料を架空に計上したり、受取仲介手数料や雑収入を除外するなどの方法により、所得を秘匿した上、所轄税務署長に対し、虚偽過少の所得金額等を記載した各法人税確定申告書をそれぞれ提出して、いずれもそのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により、法人税合計五億一九一一万五二〇〇円を免れたという事案である。

右のように、本件は、被告人らの犯行が長期に及んでいる上、その逋脱額が高額ではあることはもとより、三事業年度を通じた逋脱率も約六九・八一パーセントと高率であること、被告人が本件犯行に及んだ動機は、将来不況の到来することを慮り、それに備えて被告会社の事業資金を蓄積する一方、自らも安定した生活が出来るようにするためというのであって、いずれも私利私欲に基づくものであり、その動機に格別酌むべきものが認められないこと、しかも、本件の犯行態様たるや、いわゆるB勘屋多数に対し、多額の謝礼を支払って架空の領収証を作成させた上、その領収証を用いて多額の損金を計上したばかりでなく、B勘屋に支払った金員の一部を返還させるに当たり、わざわざ別会社を経由させ、更に、受取仲介手数料を代理受領させておりながら、これを簿外とするなどしたものであって、特に原判示第二の一、二の各事実につき、共犯者と綿密な相談を重ねて実行するなど、所得秘匿工作が計画的であることはもとより、その手段・方法も甚だ巧妙であること、被告人は、本件につき査察が開始されるや、関係者らと口裏を合わせて、同人らに虚偽の供述をさせるなど、徹底した証拠隠滅工作に及んでおり、その犯情が極めて悪質であること、以上の諸点に照らすと、被告人の刑責は誠に重いといわざるを得ない。

してみると、被告人は、捜査開始の当初、本件犯行を否認していたが、その後、事実の総てを認めて捜査に協力しており、また、被告会社の代表者の地位を退いた上、財団法人法律扶助協会に一〇〇〇万円の贖財寄付をするなど、本件について深く反省していること、被告人が本件犯行に及んだ背景には不動産業界の悪弊が存することも否定できず、また、共犯者の強引な指導に影響された面がないでもないこと、被告会社において、本件逋脱にかかる各法人税につき修正申告をして、その本税のみならず、その他の附帯税を総て完納したほか、経理体制を整えて再発のないようにしたこと、共犯者や近時における同種事案との刑の権衡等、所論が縷々指摘する被告人に有利な諸般の情状を十分斟酌しても、被告人を前期の実刑に処した原判決の量刑は誠にやむを得ないものであって、これが重過ぎて不当であるとは考えられない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 新田誠志 裁判官 浜井一夫)

控訴趣意書

被告人 株式会社オーシャンファーム

右同 若松俊男

右被告人らに対する法人税法違反被告事件につき、平成二年一〇月二六日、東京地方裁判所刑事部第二五部が言い渡した判決に対する被告人らの申し立てる控訴理由は以下の通りである。

平成三年三月五日

主任弁護人 権藤世寧

弁護人 山田修

東京高等裁判所刑事第一部 御中

原判決の量刑は、以下の点に鑑み、被告人若松俊男を懲役二年の実刑にした点において、重きに失し不当であるので破棄を免れないものと思料される。

第一 昭和六二年三月期、被告会社が西北実業株式会社宛に計上した支払仲介手数料に関する事実認定及び判断の誤りについて

原判決は、検察官請求の支払仲介手数料(原価)調査書記載のとおりに、被告会社が昭和六二年三月期に西北実業株式会社宛に計上した支払仲介手数料合計金三億一〇〇〇万円がすべて架空の計上であるとし、これが費用であることを否認して、被告会社の同期の所得金額を算定しているが、右認定は、右計上金額中には被告会社が西北実業株式会社に対して支払うべき正当な仲介手数料合計金一億二五〇〇万円が包含されていたことを看過した点において、重大な事実誤認を冒し、その結果、被告会社の昭和六二年三月期の所得金額を誤っているものである。

すなわち、被告会社の昭和六二年三月期における西北実業株式会社宛の架空の支払仲介手数料の額は、右金三億一〇〇〇万円から西北実業株式会社が受けるべき仲介手数料額一億二五〇〇万円を控除した金一億八五〇〇万円であったにもかかわらず、これを看過して事実を誤認している。

ところで、右の事実認定及び判断の誤りは、そもそも検察官の起訴時における事実関係に関する誤認と調査不足に起因している面があることでもあるので、以下に順次この点を明らかにする。

一 原判決の認定した事実関係について

右の点を明らかにし、理解しやすくするために、まず、原判決の認定した事実関係を以下に指摘する。

すなわち、それは、

A 七月 四日 計上 金五〇〇〇万円

B 九月一六日 計上 金七〇〇〇万円

C 九月一九日 計上 金 一億円

D 九月三〇日 計上 金五〇〇〇万円

E 一〇月一五日 計上 金四〇〇〇万円

(合計金三億一〇〇〇万円)

の五つのものである。

原判決は、これらの全てが架空の支払仲介手数料であるとして、これを全て否認している。

しかし、この事実認定は、検察官請求証拠、特に、被告人及び右西北実業株式会社の代表者である白石瑞男の検察官に対する各供述を仔細に検討し、判断することなく、これを形式的に評価するか或いは看過して、検察官の主張のままに認定したものと言わざるを得ないもので、後に述べるように重大な事実誤認がある。

二 支払手数料発生の経緯、その前提となる事実に関する関係証拠の内容について

1 被告会社は、昭和六二年三月期において、西北実業株式会社宛に右一に記載のとおりの支払仲介手数料を計上しているが、そのうち、問題となるのは、

B 九月一六日 計上 金七〇〇〇万円

C 九月一九日 計上 金 一億円

E 一〇月一五日 計上 金四〇〇〇万円

の三個の支払仲介手数料についてである。

2 そこで、弁護人らは、まず、右の三個の支払仲介手数料(合計金二億一〇〇〇万円)の計上の経緯、その性格等に関する関係人の供述証拠を指摘する。

右の点に関する証拠としては、被告人と西北実業株式会社代表取締役白石瑞男の検察官に対する供述調書の供述記載があるので、これらを引用する。

(一) まず、この点に関する白石瑞男の供述は、同人の平成二年二月二一日付検察官面前調書の第一七項(三七丁以下)に録取されているので、この点を摘録すると以下のとおりである。

右白石は、同検面調書において、

『次に、

目黒区上目黒五丁目物件

品川区上大崎二丁目物件

渋谷区神泉町物件

の三物件に関して申し上げます。

この三物件に関しましては、私もその売買の成立に協力しており、その都度株式会社オーシャンファームから西北実業株式会社で貰えるべき手数料がありました。

(註・傍線筆者 以下同様)

それで、私は若松さんにお早く手数料を支払ってくれるよう催促していたのですが、若松さんは決算期まで待ってくれと言って、なかなか応じてくれませんでした。

そうしたところ、昭和六二年三月ころ、若松さんから前期と同様に

オーシャンファームの六二年三月期も相当な利益が出てしまいましたので、前年と同じようにオーシャンファームの利益を圧縮するために協力してくれませんか。

ついては、この三物件につき、白石さんにその手数料として支払わなければならないお金がありますので、そのお金に上乗せした形で全部で二億一〇〇〇万円の領収証を日付を遡って先に切って頂けませんか。

と頼まれてしまったことから

目黒区上目黒五丁目物件

に関しましては、昭和六一年一〇月一五日付けの

四〇〇〇万円

の架空領収証を、

品川区上大崎二丁目物件

につきましては、昭和六一年一月一一日付けの

一億円

(註・正しくは昭和六一年一一月一日付けであり、右日付の記載は誤記である。)

の架空領収証を、

渋谷区神泉町物件

に関しましては、昭和六一年九月一六日けの

七〇〇〇万円

の架空領収証を、それぞれ西北実業株式会社名義で日付を遡って発行して若松さんに渡し、協力したものです。

なお、右の二億一〇〇〇万円に関し、当時若松さんから約束手形を受け取っていないかとのことですが、受けとった記憶をありません。

このようにして架空領収証を発行してあげたところ、その後昭和六二年六月に株式会社オーシャンファームに対して査察調査があったことから、若松さんは、慌てて昭和六二年八月になってこの架空領収証に見合う合計二億一〇〇〇万円のお金を銀行振込などで払ってきたのです。

その際、若松さんは、

架空領収証の件がばれないように、西北実業宛に二億一〇〇〇万円を出しますので、そのうち、

目黒区上目黒物件については、一〇〇〇万円をアップルシティ

に、

品川区上大崎物件については、五〇〇〇万円をシーライドエンタープライズ

に、

渋谷区神泉町物件については、二五〇〇万円を吉村興産

に、それぞれ渡してくれませんか、

と言って頼んできましたので、その通り実行しました。

このシーライドエンタープライズにつきましては、この話があった時若松さんからシーライドエンタープライズの経営者は若松さんの叔父さんであるという紹介を受けております。

また、吉村興産株式会社の吉村社長には、若松さんに頼まれて私が税務調査対策で預かって貰いたいということを頼み、この二五〇〇万円を受け入れて貰いました。

そこで、私の手元に残った一億二五〇〇万円につきましては、西北実業株式会社の預り金勘定として経理処理をしました。

この一億二五〇〇万円のうちには、先にも話しましたように、この三物件の売買に関して私の方もその仲介等に尽力しておりますので、西北実業株式会社で戴けるべきお金もありましたが、その金額が未だ若松さんとの間で相談して確定していなかったことから、西北実業株式会社で戴けるべき金額が確定していない以上、預り金勘定で処理するのが妥当であろうという考えのもとで行ったものです。

その後、私は、この預り金について公認会計士の山本先生にその真相を打ち明け、昭和六三年八月に精算しております。

(調書末尾に領収証三通写し添付・

その一 六三年八月一〇日付金額一〇〇〇万円

但 目黒区上目黒売買仲介料として

その二 六三年八月一〇日付金額一二〇〇万円

但 上大崎物件の仲介料として

その三 六三年八月一〇日付金額一〇〇〇万円

但 渋谷区神泉町の仲介料として )

只今提出したとおり、私の受け取るべき正規のお金としては、若松さんと相談し、合計三二〇〇万円として確定したのです。

しかし、私は、この差額の九三〇〇万円については、未だ若松さんに返しておりません。

なお、私及び西北実業株式会社と若松さん及び株式会社オーシャンファームとの間における金銭の貸借関係は、現在右のものが残っているだけです。』

(二) 白石瑞男は、検察官に対して、右のとおりに供述しており、その供述内容には後述のとおり正確でない点もあるが、それにしても、同人は、

目黒区上目黒五丁目物件

品川区上大崎二丁目物件

渋谷区神泉町物件

の三物件の取引に関しては、自己が正当な仲介業務を実行しており、したがって、被告会社は右西北実業株式会社に支払仲介手数料を支払わなければならなかったこと、被告会社と西北実業株式会社とは、後日、この合計金額を金三二〇〇万円として決済していることを明確に供述しているのであって、右決済に関する同人の供述の虚偽であるが、とりあえずこの点はおくとしても、右の合計金二億一〇〇〇万円の支払手数料が全て架空とは言い難いことが明らかなのである。

しかしながら、原判決の一件記録を精査しても、この点に配慮がなされ、白石供述が吟味された形跡はないのであって、右の白石瑞男の供述記載は一顧だにされていないのである。

そして、検察官の主張のままに、右金二億一〇〇〇万円の支払仲介手数料が全て架空の計上にすぎないとの判断が機械的になされているのである。

ところで、白石瑞男は検察官に対して、前記のとおり「差額の九三〇〇万円を返しておらず、私及び西北実業株式会社と若松さん及び株式会社オーシャンファームとの間における金銭の貸借関係は、現在右のものが残っているだけです。」と供述し、検察官はその供述の真偽を確かめることなく、これを機械的に録取しているが、そのために、まず検察官自らが事実を誤って認定し、起訴しているのであって、さらに、原判決が検察官の主張に安座して右供述の検討を尽くさなかったことから事実を誤認するに至っているのである。

そこで、白石瑞男の右供述を検討するが、それは以下のとおりそれ自体不自然なものである。

第一に、九三〇〇万円を返済していないと述べているが、その根拠についての供述がない。貸借であるとすれば、期限、利息等の約定があり、契約書類が存在するはずであるが、これらについての事実確認や検証がなされていない。もっとも、同人の供述するような貸付関係など全くなかったのであるから、同人の供述に沿う資料があるはずのないことである。

第二に、金銭の貸借関係の存在を述べながら、この当事者についての供述は、これを特定できない程あいまいなものである。(検察官は、白石が供述する貸付関係の内容を仔細に確認することなく、また、同人の右の点に関する供述を弾劾することなしに、同人の供述をただ鵜呑みにしているにすぎないのである。)

このように、右供述部分は、何ら裏付けとなる資料もなく、極めて信用性のないものなのである。

にもかかわらず、検察官はこれを鵜呑みにして、合計二億一〇〇〇万円の支払手数料が架空であるとの誤った認定をしたのであり、その結果、原判決も、この点に関する吟味を欠いたまま、この点に関する事実認定と判断を誤ることとなっているのである。

(三) つぎに、この点に関する被告若松俊男の供述は、同人の平成二年二月二二日付検察官面前調書の第一〇項(一九丁裏以下)にわずかに録取されているのみであるが、この供述を摘録すると以下のとおりである。

被告人は、同検面調書において、

『次に、西北実業に対する架空支払仲介料について申し上げます。

西北実業に対する架空支払手数料分の領収証は六二年五月に入って六二年三月分の申告をする少し前ころ、白石社長に頼んで作成してもらいました。

(調書末尾に領収証三通写し添付・

その一 六一年一〇月一五日付金額四〇〇〇万円

但 目黒区上目黒売買仲介料として

その二 六一年一一月一日付金額一億円

但 上大崎物件の仲介料として

その三 六一年九月一六日付金額七〇〇〇万円

但 渋谷区神泉町の仲介料として )

これが、架空領収証でいずれも日付を遡らせて作成してもらったものです。

そして、この領収証に相当する金額のオーシャンファーム振出の約束手形三通を白石さんに渡しておいたのですが、その直後の六二年六月に査察調査を受けてしまったのです。

そのため、この架空計上分については、全額が架空と見られても仕方がないわけであります。

(註・傍線筆者)』

と供述している。

(四) 被告人の供述は、右のとおり簡略なものであるが、その供述内容は、この計上を全額架空であるとするには合理的な理由を持たないと言わざるを得ず、結局、それは前記白石の多分に虚偽の事実を含んだ供述を前提にして、被告人の反論を許すことなく録取されたものと言わざるを得ず、およそ信用性のないものと言わなければならない。

そして、被告人は、この点に関する自己の主張が右のような断片的な供述録取によって否定されてしまったことで、この点に関する主張をしても仕方のないことと錯覚してしまったのである。

そのようなことであったが、被告人は、当審の弁護人らに対して、はじめて右の点に関する真実の経緯を語り、裁判所の判断を仰ぎたいことを申し出ているのである。

三 右の三口合計金額二億一〇〇〇万円の支払手数料計上の真実の経緯等について

1 被告人及び第一審の弁護人は、なるほど第一審の審理において右の点に関する主張をしていないところである。

そこで、刑事控訴審は事後審であるに過ぎないとして、第一審において提起されることもなかったような被告人らの主張は顧みるに値せず、その立証はもとより主張すら許さないという考えもあろうかと思う。

しかしながら、被告人が争わなければ、たとえ事案の真相と相違してもそれはそれで仕方がないものとし、検察官の主張が全て真実であるとするならば、それは言わば訴訟の過程で作出された虚構とでも言うべきものを確定しようとするものであって、刑事訴訟の眼目である実体的真実の発見という目的、すなわち、法に明記された「事案の真相を明らかにする」という目的(刑事訴訟法一条)は全うされないこととなる。

裁かれるのは被告人であり、その主張に耳を貸し、その納得のゆく裁判がされるべきものと、弁護人らは確信するものである。

確かに、被告人には主張する権利があり、主張すべきものは主張すればよかったではないかという論もあろうかと思う。

しかし、近時の第一審における裁判手続、特に、被告人が身柄拘束された状態で第一回公判手続を迎えるという場合の裁判手続においては、被告人が、その真意と否とにかかわらず、非を認め、加えて、検察官請求証拠の全てに同意しなければ、保釈は権利とはならない程の状況になっているというのが、実態ではなかろうか。

これが弁護人らの誤認であればご容赦を願うものであるが、この傾向はよく耳にするところなのである。

当弁護人らは、原判決後、被告人の主張を詳細に聞き取ったが、被告人は、第一審時には何かを主張することが身柄の開放や自己に対する処断に影響するのではないかと思い、裁判所に対して、判断してもらいたいところを主張できなかったというのである。

弁護人らは、被告人のこの心情をまことに尤もなものと思うのである。

2 翻って、租税に関する事案である本件のような案件は、被告人がその主張を展開するためには専門的な知識を必要するという意味で、特殊な事案である。

したがって、自然犯やその余の特別法規違反とは違い、被告人がその主張の結果を判断し、整理することは必ずしも容易なこととはいえない。

しかも、これから主張する点について、被告人は、既に明らかにしように、検察官から、「この架空計上分については、全額が架空と見られても仕方ないわけであります。」と供述させられてしまっていてみれば、なおさらのことである。

このような次第であるが、本件においては、なお、被告人が認めようが認めまいが、また、主張しようがしまいが、前記のとおり、確たる裏付けを持たず、それによって事実を確定し難い白石瑞男の供述があるのであるから、これを看過することなく、その真意を汲み取り、事案の真相を究明すべきであったのであって、この点において、原判決は、審理不尽であり、事案の真相を解明するに至っていないのである。

そして、その結果、重大な事実の誤認を冒しているのである。

3 右の三口合計金二億一〇〇〇万円の支払手数料計上に関する経緯等の実際は以下のとおりである。

(一) 被告会社が期末を迎えた昭和六二年三月ころ、被告会社は、相当な利益が見込める状態であった。

そうしたところ、本件共犯者小澤が、ほかに支払を立てられるところはないかというので、西北実業株式会社に支払わなければならない件があると話した。

被告人は、西北実業株式会社(代表者白石瑞男)に

目黒区上目黒五丁目物件

品川区上大崎二丁目物件

渋谷区神泉町物件

の三物件の売買成立に尽力してもらっていたが、他に同社が関係している進行中の案件もあったので、支払をしないまま期末を迎えることとなっていたのであった。

このことを話すと、共犯者小澤は、「それならば、期末に手形を切って支払えばいい。ただし、領収証は貰っておきなさいよ。」というので、被告人は、そのころ、右白石瑞男に右三件の仲介手数料として合計一億二五〇〇万円を支払うことを約束し、ついては、右金額に合計八五〇〇万円を水増し、上乗せして、総額金二億一〇〇〇万円を支払ったことにしたい旨を申し入れた。

(二) 右白石瑞男が、これを了承したので、被告人は、共犯者小澤に言われたとおり、同人に指示して、西北実業株式会社名義の、

目黒区上目黒五丁目物件に関する昭和六一年一〇月一五日付けの金四〇〇〇万円

の金額を水増した領収証を、

品川区上大崎二丁目物件に関する昭和六一年一一月一日付けの金一億円

の金額を水増した領収証を、

渋谷区神泉町物件に関する昭和六一年九月一六日付けの金七〇〇〇万円

の金額を水増した領収証をそれぞれ作成させ、これを入手し、その際、水増分の八五〇〇万円の処理について、

目黒区上目黒の件で一〇〇〇万円をアップルシティ

品川区上大崎の件で五〇〇〇万円をシーランドエンタープライズ

渋谷区神泉町の件で二五〇〇万円を吉村興産

にそれぞれ支払う処理をしてくるように頼み、白石瑞男の了解を得た。

また、被告会社では、資金繰り上直ちに右の金員を支払うだけの余裕がなかったので、被告人は、白石瑞男に対し、右の合計金二億一〇〇〇万円を西北実業株式会社の決算期末である八月末日までには間違いなく支払うことを確約し、同人の了承を得た。

(三) 被告人は、同年六月はじめころ、取敢えず、金一億円についてはその支払方法を約束手形によることにして、被告会社振出名義の支払日を同年八月三一日とする金額一億円の約束手形(手形番号AJ〇七三五一)を振り出し、そのころ、白石瑞男にこの約束手形を交付した。

このことについては、白石瑞男は、前記のとおり、検察官に対して、「この二億一〇〇〇万円に関し、約束手形を受け取っていないかとのことですが、受け取った記憶をありません。」旨供述しているが、これは明らかに真実と異なっており、白石瑞男の供述の信用性を疑わしめる証左の一つでもある。

その後、同年六月一六日になって、被告会社は、松竹エンタープライズ株式会社に対する法人税法違反嫌疑事件によって、その関連先として東京国税局の査察調査を受けたのであった。

そして、被告人は連日国税局の担当者から事情を聴取されるようになったが、白石瑞男は、これを知って西北実業株式会社に対しても調査が飛び火しないかどうかを非常に心配していた。

被告人は、順次被告会社の経理処理について事情聴取を受けるようになったが、右水増分の処理の経緯を明らかにするまでの決心はつかなかった。

(四) そして、西北実業株式会社の期末も近づいたことから、被告人は、同年八月二七日、西北実業株式会社の三井銀行新宿支店の銀行口座に金一億一〇〇〇万円を振込送金したのであった。また、残金の金一億円は、前記約束手形の決済によって支払われたのであった。

右の経緯で、被告人は、白石瑞男との約束どおりの支払をしたものであり、被告会社が昭和六二年三月期に未払金として計上した合計二億一〇〇〇万円に含まれていた一億二五〇〇万円の西北実業株式会社に対する正規の手数料についての支払処理が実行されたものであった。

白石瑞男は、検察官に対して、「被告人が右金二億一〇〇〇万円の支払を同年八月になって慌てて払ってきた」などと供述しているが、右のとおりの経緯は、状況があったのであって、これも真実に反した虚偽の供述である。

(五) 以上のとおり、この一件は処理されていたのであるが、査察調査の過程で、被告人は、この件の経緯をありのままに話したが、昭和六三年一月ころ、当局から、白石瑞男がこの一億二五〇〇万円の受取金を預り金であるとの主張をしているということをはじめて聞かされ、二億一〇〇〇万円のすべてが架空の支払であったろうとの追及を受けた。

白石が、西北実業株式会社の収入が過大になるのを避け、被告会社との関わりをうまく説明し、調査が自己に波及しないようにしようと考えて、預り金として計上しておくようにしたことは明らかで、被告人にとっては意外なことであった。

被告人にとっては、納得のゆかないことであったが、西北実業株式会社でそのような経理処理をし、白石瑞男がこれに沿った説明をしている以上、被告人は反論できず、その主張は嘘だと決めつけられたしまった。

なお、被告人は、この間、右白石瑞男と接触することもなかった。

(六) 被告会社の西北実業株式会社への金一億二五〇〇万円の支払いは、確定した仲介手数料の支払いであったにもかかわらず、白石瑞男の検察官に対する虚偽の供述によって単なる預託金であるとされてしまったが、真実は昭和六二年三月期に発生し確定した手数料の支払であったにもかかわらず、これについての経理処理がなされないままになっていたので、被告人は、査察調査も一段落した翌六三年八月になって、白石瑞男にこの件の処理を申し入れた。

被告人が、白石瑞男に領収証を要求したところ、白石瑞男は、被告人の足元を見たのか、「国税局には預り金と話したし、領収証は三二〇〇万円だけにして、残りは貸したことにしておいてくれ。」と言うばかりであった。そして、同人は用意した西北実業株式会社の領収証三通

六三年八月一〇日付金額一〇〇〇万円

(但目黒区上目黒売買仲介料としてというもの)

六三年八月一〇日付金額一二〇〇万円

(但上大崎物件の仲介料としてというもの)

六三年八月一〇日付金額一〇〇〇万円

(但渋谷区神泉町の仲介料としてというもの)

を寄越し、「これしか書けない。」と言うのであった。

被告人は、白石瑞男の態度に立腹し、腹立ちまぎれに、「そんなことを言うなら金を戻せ。」と言ってやったが、白石瑞男は「金はない。」と言うばかりで、被告人の領収書の要求を受けつけなかった。

右の次第で、被告人は合計三二〇〇万円分の領収書しか入手できなかった。

この当時、既に被告会社に対する法人税法違反事件は検察庁に告発されており、白石瑞男はこれを知っていたので、被告人の弱味につけ込んだのである。

(七) 以上が、合計金二億一〇〇〇万円の支払いに関する真実の経緯であって、これに反する白石瑞男の検察官に対する供述部分は、同人が自己の保身のために作出した虚偽の申立なのである。

例えば、白石瑞男は「九三〇〇万円を借受金である。」と供述しているが、真実そうであれば、被告人は契約書を作成した。しかし、そのようなことではなかったから、何らの書類の取り交わしもないのである。そして、当然なことではあるが、その後一切白石瑞男とのこの金員をめぐる接渉はない。

四 右の三口合計金二億一〇〇〇万円の支払手数料のうち金一億二五〇〇万円は真実の支払手数料であることについて

1 以上のとおり、右の合計金一億二五〇〇万円は、被告会社の西北実業株式会社に対する支払仲介手数料であり、これを被告会社の昭和六二年三月期決算において未払金に計上したことは正当なことであり、同期の経費として認容されるのは当然である。

ところが、そもそも検察官がその起訴にあたって白石瑞男の形式的な供述を鵜呑みにし、裏付けとなる書類を要求するなどしてその供述の真偽を確かめることをせず、被告人の主張を頭から否定して耳を貸さなかったために右の真実の経緯を認識できなかったのである。

2 そのために、原審においても訴訟関係人がこの点に関する問題の存することを意識することが困難な状況に立ち至ったのであるが、前記のとおり、この点に関する白石瑞男の検察官に対する供述記載には、それ自体に得心し難い点が多々あり、原判決は、検察官の主張に安易に追従し、この点の検討を尽くさなかったと言わざるを得ないのである。

そこで、原判決は、検察官に起訴を誤ったとの点があるとしても、既に指摘した関係者の供述にもその支払の正当性を伺わせる部分があるにもかかわらず、これを看過したか、或いは、これを敢えて無視して、この全額を架空経費であるとしたものと言わざるを得ないのであって、重大な事実誤認を冒しているものといわなければならない。

3 したがって、弁護人らは、この点に関する関係人の取り調べ等を尽すべきはもちろんであるが、右の手数料計上を否認した原判決は、事実の認定とこれに対する判断とを誤っているのであって、この点において到底破棄を免れないものと確信する次第である。

五 以上のとおり、西北実業株式会社に対する一億二五〇〇万円の支払手数料は、被告会社の実際所得金額より控除されることになる。従って、被告会社の昭和六二年三月期の実際所得金額は七億九一六六万一〇〇五円となり、これに対する正規の法人税額は三億三四八八万五八〇〇円であって、ほ脱税額は二億三二六〇万三二〇〇円となる。

第二 ほ脱率について

右にも関連するが、本件被告人のほ脱率三年度通算で七〇パーセント弱は、実刑言渡し判決の事例としては、必ずしも高率なものとはいえず、比較的低率な事例といえる。

他のほ脱事件において明らかなように、ほ脱率が九〇パーセントを超え一〇〇パーセントに達する事例もあり、これらの事例に比較すれば、本件のほ脱率は、原判決が指摘するほど「高率」なものとはいえない。

この高率とはいえないほ脱率の意味するところは、脱税指南であった小澤税理士の指導にも拘らず、遵法精神を失うことがなかった被告人の人格態度に裏うちされていたものといえる。

第三 被告人の捜査協力について

被告人若松は、原判決が指摘する如く、当初、共犯者小澤の指導による各種の証拠湮滅工作をなすにあたり、「一定の影響力を行使して」きたことは否定できない。しかし、査察の調査が進行するに伴い、被告人若松は遵法心に目覚め真実だけを述べることを決心し、原判決が述べるように、共犯者小澤の証拠湮滅工作に加担することを拒否し、共犯者小澤との「接触を避けるように」なった。それだけでなく、共犯者小澤の命を受けた勝野忠明による「打ち合わせどおりの虚偽の供述をするようにとの」「圧力」にも屈せず、捜査当局に協力し、その貢献は取調官であった中島鉱三検事からも一目置かれるほどであった。昭和六三年一〇月初旬ころより検察庁において被告人若松に対する取調べが開始されたが、途中でリクールト事件が生じたため、本件の取調べは平成元年九月にずれこんでいったが、中島検事に進んで協力したことによって併行して進められていた株式会社初穂の役員であった片桐忠夫及び地産トーカン株式会社の松本安弘らの脱税事件の解明がなされ、彼らに対する国家徴税権が充分に発揮できたのは、被告人の協力によるものであり、この意味において被告人若松の功績を見逃すことはできない。

第四 その他判決(量刑)の理由の問題点

一 まず、「被告人若松は、不動産取引ブームと地価の高騰による被告会社の利益の増大を千載一遇のチャンスと考え、将来の不況の場合に備えて、その経営する被告会社の事業資金の蓄積をし、将来の安定した生活の保証を得たいとの気持を抱いて本件脱税に及んだ」と原判決は述べる。

しかし、被告人若松が脱税をするに至った動機は、共犯者小澤が脱税指南として現れる以前の昭和六〇年三月の決算期までと、それ以後の昭和六一年、六二年度とは明らかに異なる。この意味で原判決の理由は、正確性を欠くものといえる。

即ち、共犯者小澤が顧問税理士として関与する以前における、脱税の動機は、単なる不動産取引に伴う取引先への裏金の支払の為の簿外資金の蓄積が主たる理由であった。

この点、被告人若松は、その平成二年二月二〇日付検面調書七丁裏において、「不動産業界では裏金を要求されることが多くあったり、また取引の担当者に裏金を渡して将来また取引に加えてもらうための潤滑油にするということが多く、いわゆる簿外の多額の支出を必要とする機会も多くあるので、そのような支出に備えておきたいと考えていた」と率直に述べている。

他面、被告人若松の右供述調書七丁表、裏には、原判決の量刑の理由に沿う供述も存することは否定できない。しかしこの供述部分は、少なくとも「昭和六〇年から六二年ころにかけての地価の暴騰」及びこれを「千載一遇のチャンスに将来に備えて蓄えをしておいて、将来の安定した生活の保証」を考えたと被告人若松が述べるように、被告会社の昭和六〇年四月一日から昭和六二年三月三一日の事業年度についての供述にすぎず、昭和六〇年三月三一日までの被告会社の事業年度には関係のない供述といえる。

この点について、被告人若松の右供述調書四丁裏、五丁表は、「(株)オーシャンファームは六〇年以前はそれ程不動産物件の取引が活発でなかった社会状況を反映して取扱い件数も少なく」、「給料とか一般管理費を賄ってせいぜい赤字にならない程度でありました」と被告会社の経理の実情を明らかにする。

少なくとも昭和六〇年の決算期までの被告会社の経理状況がかくの如きものである場合、被告人若松の当面の課題は、被告会社の経営を破綻させずに維持させることのみ関心があり、原判決が述べるように「不動産取引ブームと地価の高騰による被告会社の利益の増大を千載一遇のチャンスと考え」、「本件脱税に及んだ」とする大規模で計画的な脱税の意図は存在しなかったものと断言できる。

以上の事実から明らかなように、少なくとも昭和六〇年度の被告会社の決算期についての原判決の理由には事実の認定に誤りが存在する。

二 次に、前記一と密接に関連するが、原判決は、「被告人若松は、被告人小澤が本件脱税に関与する以前から、既に相当多額の架空仲介手数料を計上して所得秘匿工作を行っていた」と述べる。

確かに、被告人若松が、共犯者小澤が関与する以前より架空仲介手数料を計上した事実を否定することはできない。しかし、昭和六〇年三月期の架空仲介手数料に関する原判決の「相当多額の架空仲介手数料」を計上した旨の判示は問題を含む表現といえる。

この点、原判決は、被告人若松が本件脱税に及んだ経緯に触れ、「不動産業界における悪弊」が存在することを認めたうえ、「仲介した取引の当事者会社の担当者らから、金員を要求され、それに応じるために裏金を捻出する必要に迫られ、そのため脱税に及んだという一面があること」を認めるものである。

この原判決の判決理由を噛み砕いて述べれば、取引上の当事者もしくは協力者に対して支払うべき裏金を捻出する範囲内での架空仲介手数料の計上は、社会通念上止むを得ない場合もあり、場合によっては、社会悪として認められる可能性があることを言外に含むものと解釈できるのである。

翻って、共犯者小澤が関与するまでの被告人若松の所得秘匿工作について一言述べれば、その脱税態様は、不動産業界で行われている通常の方法が用いられており、その架空仲介手数料の計上額についても、取引上の当事者・協力者から要求された裏金総額の範囲を多少超える程度の金額であった。この点について、被告人若松の平成二年二月二六日付検面調書三丁裏・四丁表によれば、「これらの結果を見ていただくと判りますように小澤税理士が関与していない架空支払手数料計上分は主として片桐や吉住へのバックリベートを捻出する際、それに乗じて小額の裏金を作っていたものでオーシャン独自でまとまって多額の裏金を作るようになったのは小澤税理士が関与し始めてからであります。」「そのため、(株)オーシャンファームの簿外の資産は六一年三月期末と六二年三月期末に形成されております。」と被告人若松本人も述べている。因に、共犯者小澤が関与する以前の被告会社の昭和六〇年度のほ脱金額は、僅かに金一二七九万六〇〇〇円に過ぎず、国税当局からの説諭、叱責及び修正申告をもって事足り、公判請求までされる事案でなかったことを想起すべきである。

そうであれば、原判決の「既に相当多額の架空仲介手数料を計上」した旨の判示は妥当性を欠く表現といえるものである。

三 第三に、原判決は、被告人若松が、「本件三事業年度を通じて一貫して脱税の意図を有し、そのための所得秘匿工作を全般にわたって積極的に行ったもの」と判示する。

確かに、共犯者小澤が関与した前後を問わず、被告人が脱税の意図を有したことは認められるが、そのために所得秘匿工作を積極的に行ったとする点については、事実の認定に誤りがある。

原判決は、共犯者小澤について、「顧問税理士となって顧問料等多額の報酬を得たいとの利欲的な動機から、しかも被告人若松からの誘いがあったわけでもないのに」、「積極的に本件脱税に加担する」一方、被告人若松は、「被告人小澤から提言された脱税のための方策を利用して脱税の規模を拡大していった」責任があると述べる。この意味するものは、積極的かつ能動的な共犯者小澤に比較し、被告人若松は主体的ではあったがあくまでも消極的、受動的な立場にあったことを原判決は認めているのである。

この点、共犯者小澤の平成二年二月二四日付検面調書は、小澤と被告人若松の出逢い及び小澤が被告人会社の元の関与税理士であった風間運征税理士を追い出して自ら顧問税理士になるに至った経緯を赤裸々に述べている。

右供述調書は、

1 「私の関与先は、そのほとんどが中小企業でありまして、何億も利益のあがるようなところはなく」、「当時」、「私はオーシャンの関与税理士になりたいと思ったのであります」(六丁裏)。

2 「風間税理士と顧問契約を結んでいても」、「私が」、「若松社長にアドバイスして行けば必ず若松社長から信頼されてメインを取れる。つまり風間税理士より私が重要だと思われる顧問税理士になれると思った」(八丁裏)。

3 そのために「休日を潰してでもオーシャンのような良い顧客を獲得することにし」たのであった(一四丁表)。

右の事実から、共犯者小澤が前任の税理士を排除して自ら顧問税理士になる為に、如何なる犠牲をも払う決意が認定される。

そしてこの決意を実践するために共犯者小澤は、

4 被告人若松と「会って二回目」(一一丁表)にも拘らず、所得圧縮方法の一つとして、約束手形の使用を助言している。即ち、「私の方から若松社長に銀行から手形帳を貰い当座取引できる口座を作る」(一二丁裏)こと及びその理由として、「以前に支払うべき原因が発生し、将来それを支払うというような場合には先日付の小切手などより手形のほうが自然だ」(一二丁裏)と説明している。小澤は、手形を利用することによって、小澤流の所得圧縮工作を被告人若松に直伝し、同人の歓心を買うだけでなく同人の所得を秘匿したいという考えにつけ込み、「オーシャンのメイン税理士を取りた」(一二丁表・裏)いという小澤の夢を実現していった。

5 そして右小澤流の脱税指南が、昭和六一年度及び六二年度の高額な脱税の呼び水となったのであり、この様な小澤の指導がなければ(風間税理士が指導していれば)、本件の如き高額な脱税事件は絶対に起きなかったと断言できるのである。

この点、小澤は、「このことが、これから申し上げる架空領収証を作り、そこへ実際にお金が動いたように仮装するために手形が使われていく訳で」(一三丁表)と説明し、被告人若松を本件脱税に引き込んだことを、「本当に私としては反省して」(一三丁表)いると述べている。

6 小澤は、右手形の利用と伴に、所得圧縮工作として、専門家の立場から、「事業資金の短期借入金の利息を一括して前払いし」(一九丁裏)、これを損金として落とす方法及び「本来オーシャンが受け取るべき仲介手数料をオーシャンの期末には別の会社に受領させ、決算後に戻してもらう」(二〇丁表)という高度かつ技術的な見地での助言をなしている。

以上の事実から明らかなように、小澤の助言により主体的に所得秘匿工作をなしたことは認められるも、被告人若松が積極的に行ったとする点については、認定上の明らかな誤りが存在する。

四 最後に、原判決は、「とりわけ、被告人小澤の関与した二事業年度においては、架空仲介手数料の計上の配分等につき被告人両名で互いに相談して綿密な検討を重ねた上実行に移」した旨判示する。

しかし、この点については前記三で述べたように、所得圧縮工作に積極的であったのは共犯者小澤であり、被告人若松は消極的かつ受身の立場にあったこと及び後に述べるように、架空仲介手数料の配分に関する平成二年二月二四日付小澤の検面調書添付の資料二のメモの存在から明らかなように、「多額の架空仲介手数料についてその相手先・金額等に関し、税務専門家としての知識と経験を活かして」、小澤が「被告人若松にアドバイス」をなし指導したのであり、原判決が認定した「被告人両名で互いに相談」したとする認定は余りにも皮相的である。

この点、被告人若松も、同人の平成二年二月二二日付検面調書四丁表において、「私自身がオーシャンファームの経営者としてその指導に従わなければよかったわけで私自身の責任逃れを申し上げる気持ちは毛頭ありません」し同様に平成二年二月二五日付検面調書六丁表において、「何も小澤税理士だけの責任だなどとは毛頭申し上げるつもりはないのですが」、昭和六一年の「二月四~五日ころ小澤税理士が架空仲介手数料計上の額を書いたメモを持って来ました」(被告人若松の平成二年二月二五日付検面調書五丁表・裏)。このメモについては、「私の方から小澤税理士に頼んだわけではなく小澤税理士の方から積極的に書いて持って来たものです。」「小澤税理士はこのメモを示しながらこのままでは殆ど税金で持って行かれてしまうからこのメモに書いたようにそれぞれの取引でこれくらい払ったことにしたらどうか」、「秘密が守れて信頼できる取引先はないか」(右同五丁裏、六丁表)と小澤に尋ねられている。

もっとも、この点については、原判決の認定に沿う小澤の供述が存在していることは否定できない。即ち、「検察官から、このメモは私が独自に利益圧縮を図る目的でその案ということで書いたものではないかと聞かれました。しかし、先程申し上げたように、これらの物件について、この位の利益圧縮が可能かどうかということを若松社長から持ち掛けられて、その相談に乗ったもので私が全ておぜんだてしたものではなかったのです」(前記小澤の調書一七丁表)と述べている。

しかし、原判決の認定に沿う右小澤の供述については以下のとおり信憑性がない。

1 右のメモが作成された昭和六三年二月は、小澤が風間税理士を排除して、自分がオーシャンの顧問税理士になることを夢みた時期であり、被告人若松の歓心を買うため積極的に所得を圧縮する方法及びその金額を伝授しており、この一貫として右メモが小澤から被告人若松に持ち出されたこと。

2 小澤は、被告人若松に対し、計上先が記載されていなかった右メモを持参してきたが、計上先が右メモ上に記載されるにあたり、被告人若松の供述は、その場の状況を具体的かつ適確に叙述しており、臨場感溢れる若松と小澤のやりとりは、経験則に照らしても信憑性が高いものと思料される。

即ち、計上先について、前記若松の調書七丁裏・八丁表は、

「先生、そうは言うけれど

東京建匠は無理ですよ

またエスティ企画さんもこん

なに多額の仲介料を引き

受けてくれそうもありませんよ

松竹エンターだった頼み

ずらいですよ

などと言って反対したりしました。」

計上金額についても、同様に、

「仲介料を払ったことにする

にしても今こんな五億

以上の金を動かすだけの

資金がありませんよ

と言ったところ小澤税理士は

金がなければ銀行から

借りればいいし、そうすれ

ば金利の前払いで利益

を消せるじゃないか

と言い出し」(右同八丁表・裏)

計上の時期及び計上金の現金性について

被告人若松は小澤に

「そうは言っても去年九

月とか一〇月に払ったと言って

みても実際に金が動いて

いないのだから無理じゃな

いですか

と言ったところ、小澤税理士は

社長、そんなの簡単だよ

手形を使えばいいじゃないか

手形用紙を銀行から貰って

来ておけよ

と言いました。」(右同九丁表)

計上先の訂正及び代理受領について

S・T企画の部分が二本線で抹消され布施と書かれている点について

「この部分について小澤税理士が

俺の知っている先で

布施不動産という会社が

あって赤字だからそこの

社長なら信頼できるから

俺から頼んで空領収

証を切ってもらってやる

と言ってくれました。」(右同一〇丁表)

本来はオーシャンが受け取るべき仲介手数料を西北実業が代理受領した点について

「そんなものは西北実業

に受けてもらえばよいじゃないか

と言われ、私もそういううまい方法

もあるとか思った」(右同一〇丁裏)

以上の小澤と若松のやりとりから明らかなように、「この位の利益圧縮が可能かどうかということを若松社長から持ち掛けられて、相談に乗った」と述べる小澤の前記供述は到底信用に値するものではないのである。

従って、「架空仲介手数料の計上の配分等」について「被告人両名で互いに相談」したとする原判決の認定は、三事業年度を通じて一貫して小澤の強引な指導に基づくものであり、「被告人両名で互いに相談」したとする原判決の認定はこの部分に関する限り誤っている。

五 以上のとおり、原判決の理由については問題点があるものの原判決が述べるように、本件は、「被告人小澤が所得秘匿工作において大きな役割を果たし、それを支えたことは明らかであり、被告人小澤のこうした関与があったからこそ本件多額の脱税が可能となったといえる。」のである。

第五 贖罪について

一 被告人若松は、その弁論要旨二、四から明らかなように、「換価し得るすべての資産を売却し」、「納税義務を果たすために本件犯行によって得た蓄積をすべてはき出すことになったのはもちろんのこと、それ以上の資産をほとんどすべて国に提供」しただけでなく、「本件につき心からの反省と贖罪の気持を表すために、個人の銀行借入金を原資とする金一〇〇〇万円の贖罪寄付を、法の日である平成二年一〇月一日財団法人法律扶助協会に対しおこなっ」ている。

二 被告人若松は、本件犯罪を犯したことに罪悪感を覚え、悔い改める素直な気持から、個人資産から可能な範囲の償いを贖罪という形で実現した。

被告人若松は、第一審の判決言渡しの現在にあっても、自分の犯した行為の国家及び社会に対する責任を感じ、社会の為に多少なりとも寄与できる有用なことをしたいと思料している。

三 被告人若松は、日本国民として心晴れて社会復帰が許されるように、被告人若松の経済的負担の限度において可能な寄付を、再度、社会的公共団体にしたいと純粋に考えている。この具体的内容については、控訴審において明らかにする予定であります。

昭和六三年(う)第六一五号

控訴趣意書

法人税法違反 被告人 株式会社オーシャンファーム

同 同 若松俊男

右被告事件に関する私の控訴の趣旨は、以下に述べるとおりです。

平成三年三月五日

被告人 若松俊男

東京高等裁判所第一刑事部 殿

第一 東京地方裁判所の判決では、株式会社オーシャンファームが昭和六二年三月の決算期に西北実業株式会社に対して支払った仲介手数料合計金三億一〇〇〇万円について、これが全て架空計上であるとされたのですが、右の金額のうち金一億二五〇〇万円については正当な仲介手数料の支払であり、支払経費だったのです。

そこで、以下に、この件についての経緯などを説明しますが、ぜひともこの点についてお調べ願いたいのです。

一 西北実業株式会社に対する金一億二五〇〇万円の仲介手数料支払に至る経緯について

1 株式会社オーシャンファームでは、西北実業株式会社から物件紹介を受けたり、取引に際して仲介等の労をとってもらっていた物件取引が多数ありました。

そのような取引のうち、右の合計金一億二五〇〇万円の支払いの対象であった土地取引は、

目黒区上目黒五-一-二七の物件

品川区上大崎二-二六六の物件

渋谷区神泉町三四の物件

でありました。

そこで、まず、これらの各取引の概略を説明します。

(一)目黒区上目黒五-一-二七の物件取引の概略

この物件取引は、昭和六一年三月ころ情報を得たもので、売主は地産トーカン株式会社であり、売却の意向でいることが確認できました。

そこで、当社は、この物件は売却先として前島建設株式会社、株式会社初穂の二社に目星をつけて交渉しました。

この両社とも買入の意向を持っていましたが、株式会社初穂が高級マンション建設用地として購入したい意向が強かったので、同年四月中旬ころ、地産トーカン株式会社から前島建設株式会社を経由して株式会社初穂に権利移転するという方法を取ることで合意が成立したのでした。

そして、同年四月二五日にそれぞれの売買契約が成立しました。

地産トーカン株式会社から前島建設株式会社への売却金額は三六億二八九二万円であり、前島建設株式会社から株式会社初穂への売却金額は四一億六七六〇万円でありました。

この取引では地産トーカン株式会社の売却の意向が強く、これが業界に流れていたので、他社も売却をめぐって活発に動いており、これを押さえるための活動を西北実業株式会社に終始担当してもらったのです。

短期間に決着をつけたい案件であっただけに、他社の動きを牽制することは重要なことで、この面での活動の一切を西北実業株式会社の白石氏にやってもらったのです。

(二)品川区上大崎二-二六六の物件取引の概略

この物件取引は、昭和六一年八月ころ西北実業株式会社の白石氏から持ち込まれたもので、白石氏の話では、松竹エンタープライズ株式会社の所有物件であり、西北実業株式会社が専任の売却委任をもらっているとのことで、当社で客付けをして欲しいというものでありました。

そこで、松竹エンタープライズ株式会社に売却の意向等を確認したところ、西北実業によく説明してあるから、よろしく頼むとのことでありました。

こうして、この物件取引に着手し、東高ハウス株式会社等に検討を依頼したのですが、時間がかかりすぎたことから株式会社グローリア初穂に持ち込んだのでした。ところが、値引き交渉を受けてしまい、西北実業株式会社の白石氏に代金面での交渉をしてもらったのです。

この結果、価格交渉がまとまり、同年九月一九日、売買金額三三億六〇三万五〇〇〇円で、松竹エンタープライズ株式会社から株式会社グローリア初穂に売却するとの契約ができたのです。

このように、この件はもともと西北実業株式会社の仕事であり、契約に際しての売主の立会人は、西北実業株式会社の白石社長であった件でした。

そんな訳で、当社が西北実業株式会社の案件に手を貸して纏めたと言ってよいものだったのです。

(三)渋谷区神泉町三四の物件取引の概略

この物件取引は、昭和六〇年一〇月ころに着手し、決着までに約一年間を要したものでした。

この取引は不二建設株式会社から当社が売却依頼されたもので、西北実業株式会社に対しても買い付け先の開拓をしてもらったのでした。

そして、日本興発株式会社が購入するという話が一番有力で、具体的に進んだのでした。

そこで、他にも進んでいた売却候補先を整理し、対象を日本興発株式会社に一本化する必要が生じたので、このための他業者への折衝を西北実業株式会社の白石氏にやってもらったのでした。

その結果、同年一一月一一日、不二建設株式会社から日本興発株式会社に代金一〇四億四七九八万円で売却するという契約ができたのです。

この件の受け取り手数料の入金は、代金支払が分割であったために、翌年の八月、九月にづれ込んでしまいました。

そのために、西北実業株式会社への手数料支払をしないままになっていました。

2 右の1で説明したように、いずれの物件取引についても、西北実業株式会社に取引成立のための活動をしてもらっており、西北実業株式会社の立場はそれぞれの案件で違っていましたが、いずれにしても、株式会社オーシャンファームは西北実業株式会社に手数料を支払わなければなりませんでした。

ただ、この当時、株式会社オーシャンファームと西北実業株式会社は、いろいろな案件で共同し、協力してやっていたので、第三者である仲介人が介在した独立の案件については、その件の処理が終わった段階で互いの手数料の支払決済をつけてしまうことまでしていましたが、このような案件でないものについては、その仲介業務においてどちらが主導的であるか、情報の反省源がどちらかといったことにより手数料金額に差異が生ずるのですが、個々の場合にその都度、手数料のやり取り、支払決済までしないでおくようなことで仕事をやっており、右の三件もこのようなものだったのです。

株式会社オーシャンファームと西北実業株式会社は、密接な協力関係にありましたから、共同で行う仲介業務が絶えることなく継続する方がお互いのためになるという意識が双方にあり、一件、一件の決着をつけるよりも、先程申し上げたように個々には主従等の立場の差のある数件分をまとめることになり、公平なことになるので、このような精算方法を取るようになっていたのです。

実際、この昭和六〇年、六一年当時には不動産取引が活況で、私も西北実業株式会社の白石氏も日々の営業活動に追われており、この多忙さということが、自然に互いの手数料支払の決済を後回しにするということの一因ともなっていたのです。

また、取引案件のなかには、当社が西北実業株式会社から手数料の支払を受けることになるものとその逆のものがあったので、まとめる方が簡単という事情もあったのです。

このようないろいろな要素があって、互いの手数料が未決済のまま月日が経つということがちょくちょくあったのでした。

二 西北実業株式会社に対する金一億二五〇〇万円の仲介料支払を実行した経緯、同社白石瑞男の検察官に対する供述内容などについて

右一で説明したように、株式会社オーシャンファームは、西北実業株式会社に対して、目黒区上目黒五丁目、品川区上大崎二丁目、渋谷区神泉町の三物件に関して仲介手数料を支払わなければならなかったのです。

そこで、つぎに、この手数料の支払実行をした経緯を説明します。

1 昭和六二年三月に入ってだったという記憶ですが、私は、小澤税理士から支払先の有無を確認されました。

確か、小澤税理士は「ほかに支払を立てられるところはないか。」という言い方をしたと思います。

そう聞かれた私は、この西北実業株式会社に支払わなければならない三つの物件のことを話したのです。私は、「一億ないし二億の支払をしなければならないが、今会社には現実にそれほどの現金はないし、どうしたものだろう。」と言って相談したのです。

すると、小澤税理士は、「それならば、手形支払にすればいいよ。ただし、領収証はもらっておきなさいよ。」というのでした。

2 そこで、私は、そのころ、西北実業株式会社の白石社長に会い、この三件の仲介手数料として金一億二五〇〇万円を支払うことで合意し、資金繰りの都合で先払いにしてもらうことを了解してもらいました。

そして、その際、金額を水増しし、総額で二億一〇〇〇万円を支払ったことにしたい旨も申し入れました。

私は、白石氏に、「目黒区上目黒物件で一〇〇〇万円をアップルシティ、品川区上大崎物件で五〇〇〇万円をシーランドエンタープライズ、渋谷区神泉町物件で二五〇〇万円を吉村興産に支払う処理をして欲しい。」と頼み、このことも了解してもらったのでした。

白石氏が私の申入れを了承してくれたので、私は、小澤税理士に言われたとおり、領収証を先に渡してもらいました。

その領収証というのが、

目黒区上目黒五丁目の物件についての昭和六一年一〇月一五日付けの金四〇〇〇万円

品川区上大崎二丁目物件に関する昭和六一年一一月一日付けの金一億円

渋谷区神泉町物件に関する昭和六一年九月一六日付けの金七〇〇〇万円

の三枚の領収証でした。

白石氏との話合いで、この件の支払は、遅くとも西北実業株式会社の決算期である八月末までにけりを付けることになったのです。

この話合いの結果は勿論小澤税理士に伝えました。

3 その後、私は資金繰りの見通しを考えて、六月に入ったころ、まず額面金額一億円の株式会社オーシャンファームの約束手形を振り出し、白石氏に届けました。

この約束手形の支払期日は余裕を見て八月三一日としました。

このような処理をしてしばらくした六月一六日になって、株式会社オーシャンファームは、松竹エンタープライズ株式会社に対する法人税法違反事件の関係先として、国税局の捜索と調査を受けたのでした。

私は、連日のように国税局の担当者から質問調査を受けるようになり、そのうちに株式会社オーシャンファーム自体に対する違反調査に移行していきました。

白石氏は、当時、こんな状況になっていることを私から聞いて知っており、彼は西北実業株式会社自体にも調査が飛び火しないかどうかを非常に心配していました。

4 私は、株式会社オーシャンファームの経理処理を次々と聞かれましたが、この当時はもっと古い年度ことを聞かれている状況だったので、このことを口にする機会もなく、この合計二億一〇〇〇万円の件についての本当の事情を話す決心もつきませんでした。

そうこうするうちに、白石氏と約束した八月になってしまい、この二億一〇〇〇万円を支払わないわけにはいかなかったので、私は、八月二七日に金一億一〇〇〇万円を西北実業株式会社の取引銀行口座に振込み送金したのでした。

残りの金一億円については、既に約束手形を渡してありましたから、それが決済されるだけのことでありました。

私は、いまさら形を変えるのもかえって変だと思い、白石氏が私との約束どおりにするだろうと考えて、成り行きに任せるしかないという気持ちでした。

ただし、水増し分については、架空の計上であることがいずれ判ってしまうだろうと思っておりました。

5 その後も調査は続き、翌昭和六三年に入ってからだったと思いますが、この支払についても聞かれたので、私は、査察官にこの件について、これまでに説明したとおりの事実関係を話したのです。

ところが、査察官から、西北実業株式会社の白石が一億二五〇〇万円は預り金であると言っているし、そのような経理処理になっていると言われてしまい、私の申立はまったく信じてもらえませんでした。

私は、この時にはじめて、白石氏がこの一億二五〇〇万円を預り金にしていることを知り、彼は査察調査が西北実業株式会社に飛び火することをおそれていましたから、自分が何とでも説明できるようにということで預り金にしておく処置を取ったのだと思いましたが、このために、私の申立は嘘だと決めつけられてしまいました。

私は、白石氏がこのような処理をしており、反論のしようがありませんでした。

私は、いくら主張しても仕方のないことなのかと思いました。

6 こうして、西北実業株式会社へのこの支払は宙に浮いたというか中途半端なものになってしまいました。

その後も、査察調査は継続し、私は主張しても認められないとあきらめざるを得ませんでした。但し、きちんとした経理処理はされていませんでしたから、この年八月になって、白石氏にきちんと処理してくれるように申し入れたのでした。

すると、白石氏は、「国税局にも預り金と話したし、領収証は三二〇〇万円だけにして、残りは貸したことにしておいてくれ。」と言うのでした。

以前は友好関係にあったのに、白石氏の態度は変わっており、私は弱みにつけ込まれたと思いましたが、白石氏はこれ以外の領収書は書けないというのでした。

私は、腹が立ち、「そんなことを言うなら、金を返してくれ。」と言ってやりました。しかし、白石氏は「金などないし、貸したことにしておいてくれ。」と言うばかりでした。

そして、白石氏は、用意した西北実業株式会社の領収証三通

六三年八月一〇日付金額一〇〇〇万円

(但目黒区上目黒売買仲介料としてというもの)

六三年八月一〇日付金額一二〇〇万円

(但上大崎物件の仲介料としてというもの)

六三年八月一〇日付金額一〇〇〇万円

(但渋谷区神泉町の仲介料としてというもの)

を寄越したのです。それ以上のことは頑として受け付けてくれず、物別れになってしまいました。

この時に貸し付けの話がまとまったものであれば、私は書類を取り交わしました。しかし、そのようなことではなかったのです。

7 西北実業株式会社の白石氏は、自分の検事調書(平成二年二月二一日付・第一七項・三七丁以下)で、このことについていろいろ述べていますが、その中身には真実とそうでないものとがあります。

白石氏が、その供述の冒頭で株式会社オーシャンファームからもらえる金があったと話しているとおりなのですが、私が、総額二億一〇〇〇万円の領収証を頼むときに、

「利益圧縮に協力してくれなどと言った」

というのは白石氏の嘘で、そんな事実はありませんでした。

私が白石氏にそのようなことまで言う必要はなかったことです。

また、私はこの支払のため約束手形を振り出していますが、白石氏は、右の検事調書で、「手形は受け取った記憶はない」と話しています。しかし、これも実際とは違います。

また、小澤税理士から現金がないなら手形支払にしたらいいと言われていたので、言われたとおり、資金繰りの見通しをつけて、一部を約束手形で支払っております。

白石氏は、右の検事調書で、「若松さんは、慌てて昭和六二年八月になってこの架空領収証に見合う合計二億一〇〇〇万円のお金を銀行振込などで払ってきた」と話しておりますが、決してそんな状況だったものではなく、当初の合意のとおりに支払の処理をしただけのことだったのです。

西北実業株式会社の決算期が八月末日なので、約束どおりに、それ以前に全ての支払をしただけのことだったのです。

さらに、白石氏は、右の検事調書で、「戴けるべき金の金額が未だ若松さんとの間で相談して確定していなかったことから預り金で処理した。」、「昭和六三年八月に、私の受け取るべき正規のお金としては、若松さんと相談し、合計三二〇〇万円として確定したのです。」と話していますが、これも既に申し上げたように真実と違うのです。

白石氏が言うように、九三〇〇万円が貸付金であるならば、西北実業株式会社はいつまでに返済するというのでしょうか。

このように、白石氏は自分につごうのよいいろいろの嘘をついているのです。

三 私の捜査並びに裁判での右仲介手数料に関する申立状況等について

1 株式会社オーシャンファームの西北実業株式会社に対する合計一億二五〇〇万円の支払いは、合意に基づく当然の支払いでしたから、私は、西北実業株式会社ではこの一億二五〇〇万円を当然収入に計上しているものと思っていました。

ところが、既に説明したように、昭和六三年一月に入って、国税査察官にこの間の事情を申し上げたら、国税査察官は、「西北実業では預り金になっているし、支払うべき金があったはずはない。」と言うばかりで、私の話を取り上げてくれませんでした。

私は税務の知識というとほとんどないと言ってよく、実際は違うのにと思いましたが、嘘にしろ白石氏が主張しており、専門家にそう言われてしまうと主張しても通らないことなのだと思いました。

2 私は、平成二年二月に逮捕されました。その後の調べの際に、念のためと思い、検事さんにもこの一億二五〇〇万円についての経緯を話しました。

しかし、白石氏は私の言うようなことを話してはいないとのことで、やはり私の主張を取り上げてもらえませんでした。

それで、私はいよいよ主張しても仕方のないことなのだと思うようになり、裁判で主張してもかえって私が反省していないと見られるだけだろうと考えるようになりました。

3 私は、勿論、法廷に立つのが初めてでした。

私は、今回の件については本当に反省していましたし、弁護士さんたちからは余計なことは言わないようにと指示されていました。

そこで、私は、そのとおりに従おうと考え、弁護士さんに対してこの西北実業株式会社への手数料支払に関する事情を話すこともしませんでした。

私は、この件については納得できませんでしたが、このような主張を持ち出すと、裁判官の私に対する印象が悪くなるのではないかと不安に思い、弁護士さんの指示のとおりにしようと思っていたので、このことを持ち出すことがどうしてもできませんでした。

四 この手数料支払の件に関する判決後の心境、検討の経緯について

1 今回の件については確かに自分にも非はありますが、私は、資格者である小澤税理士の言うところに従って処理していたことが多く、資格のある税理士さんが言うのだからと考えて処理していたことが多かったのです。

私は、経理知識ということになるとほとんどありませんでしたから、本当に小澤税理士の言うままに進めてしまったことが多々あったのです。

私は本当に反省していますが、実際にそのようなことが多々ありましたし、振り返ってみると、小澤氏が税理士でなければこれほどまでのことはなかったと思うのです。

2 私は厳しい判決を受けてどうしてよいかわかりませんでしたが、新たについていただいた先生方に事件の内容や事情を細かく聞かれて、ありのままを説明しました。

この西北実業株式会社への手数料支払の件についても、事情や経緯を全て申し上げ、西北実業株式会社の白石社長が、本当のことを説明してくれておらず、どうしても納得できないことを申し上げたのです。

既に述べたように、白石社長の検事調書にはいろいろと嘘があるのに、この件が問題にされないままになってしまったことを説明したのです。

五 この件に関する裁判所への審理のお願いについて

私は、この西北実業株式会社への合計一億二五〇〇万円の手数料支払が否定されたことについては、どうしても納得がいかないのです。

西北実業株式会社の白石氏は、検事さんに対して、手数料の金額は決まっていなかったとか、後日精算し、一部は借りたもので返していないなどと言っていますが、これらの申立は自分に都合よく作り上げたもので、事実をねじ曲げて説明しているのです。

白石氏は一部が貸借であると言いますが、そんなことではありませんでしたから、期限や利息といったことの取り決めもありません。

白石氏が今日にいたるまで返済のことで何かを言ってきたこともありません。白石氏にとっては借りた金などではないのですから、これは当然のことであります。

私は、この件で白石氏に言いたいことがありましたが、裁判の開始以来今日まで、私がこのことで白石氏と接触しようとしたことはありません。

私は、保釈してもらった身でしたから、白石氏の場合に限らず、事件の上での関係者に何らかの接触をして、あらぬ誤解を受けてはならないと肝に命じて、そのようなことは一切しないように心がけてきたのです。

しかし、東京地方裁判所の判決を受けて以来、このままでは真実と違うままに裁判が行われ、終わってしまうと思うと、たまらない気持でいるのです。

私はどう考えてもこの西北実業株式会社に対する仲介手数料の件については納得ができないのです。

是非とも、この点について、裁判所のお調べを願いたいのです。

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